♥♥♥危険なアフタースクール〜♥♥♥
今日の昼休みに、トイレから出て来てハンドタオルで手を拭きながら学校の廊下を歩いていたすみれ。

その目の前に突如現れた雷馬が、すみれを壁際まで追い詰めた。

壁に追い詰められ、すみれは背中を壁につけた。

「ちょっ!」
すみれの顔の近くに、ダン!と手をついて真っ正面に立った雷馬。涼しい顔ですみれを見て、口角を少し上げてみせる。

さらに、色気のあるかすれたハスキーボイスで

「ねぇ、きみ。今日から俺の家庭教師やってくれない?」

と言ってきた時、すみれは正直、自分の耳をだいぶ疑った。



「は?わたしですか?」



「そう。花岡 すみれ。学年トップの成績をほこる才女だよね? 」

「確かにトップですが……それが何か?」

「じゅあ、きみだ」

雷馬は、すみれに顔を近づけてきて、深く吸い込まれそうな漆黒の瞳でジッとすみれの瞳を見つめてきた。


「才女って聞いたから、ただのガリ勉ちゃんかと思ってたけど……なんだ、案外かわいいじゃん」

ーーーか、かわいい?私が?

初めて男子から『かわいい』なんて言われた。決して間に受けたりしない。しないけど、嬉しいやら、恥ずかしいやらで、何も言えずにすみれは、あわあわと口を動かしていた。

「きみ、かわいいよ。食べてしまいたいくらいだよ」

壁ドンされた状態で、更に顔を近づけてきた雷馬。

「た、食べっ……離れてください!」
雷馬の顔を遠ざけるために、雷馬の顔を掌で押した。押したが、顔を押した指の間から見えた雷馬の漆黒の瞳を見たら、だんだん力が抜けていくのがわかった。

それからの記憶は、曖昧になっている。


とにかく、すみれは雷馬に嘘みたいなクサイセリフを囁かれ、すっかりポーっと魂をぬかれている間に、話は雷馬にうまくまとめられていたようだ。

……ようだ。と人ごとのように、すみれが話すのには理由がある。

何故なら、その時の会話をすみれは全く記憶していないからだ。


だから、学校帰り正門を通ってすぐに黒塗りの高級車が目の前に停まった時も妙な威圧感しか感じなかった。

高級車から出てきた黒服の中年男性に『お迎えにあがりました』と言われても『人違いです』と丁重に断ったのだ。

ところが中年男性が胸ポケットから三つ折りにした髪を取り出し、

『契約書
本日から犬飼家の家庭教師として働く』

と書いてあるのを見せられた。


そういえば、昼休みにそんな話になったような気がするなぁと、うろ覚えだがなんとなく思い出したすみれ。

もう一度、雷馬に家庭教師のバイトの話は事実かどうか確認するために、仕方なく、すみれは車に乗り込んだのだった。





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