臆病の定義
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 僕の友人は臆病である。
 何て変わったところはない、多数決では必ず「多」の中にいるような極めて普通の少年である。しかし、唯一変わったところと言えば彼の口癖。
「僕は臆病だ」
 いつからだろうか、その口癖は僕たちの日常となっていた。何度聞いたかなんて覚えていない。それほどにしつこく聞かされると本当に彼が臆病な気がしてくるもので、試しに肩にミミズでも乗せてやりたくなる。
 彼は本当に臆病か、それを肯定する者もいなければ否定する者もいない。臆病なんて言葉にはそもそも基準がないから真偽の確かめようもないのである。僕たちは本人が言うのだからそうだろうと軽く考え、深追いはしなかった。友人イコール臆病の方程式は崩されることなく曖昧に形を保ったまま今日にまで至る。
 そう、これはそんな平凡で臆病な彼のとある夏の話。


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