銀棺の一角獣
「……アルティナ」


 気遣わしげな声にアルティナは視線を上げた。


「僕が同じ馬車にいるのが気詰まりならば、そう言ってくれればいい。馬も十分に連れてきているからね」

「いえ、そうじゃないんです……、そうじゃないの……」


 彼はこんなに優しいのに――


「カレン殿」


 キーランはほとんど口を開くことのない神官に向かって話しかけた。アルティナから意識をそらしたという意思表示であるかのように。


「神殿についたら、アルティナは何を?」

「それについてはお答えしかねます、キーラン殿下」


 恭しくカレンは頭を下げるが、そこにははっきりと拒絶の意志があらわれていた。


「そう……、そうだね。僕に言えるはずもないか」


 困ったように笑うキーランは、馬車の窓を叩いて馬車を停めるように合図した。


「少し休憩しよう。ケイシー、お茶を頼む」


 携行用の茶器を取り出して、ケイシーがお茶の準備をしている間、キーランはどこかに行ったままだった。
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