銀棺の一角獣
 スウェインは両手をパン、と打ち鳴らすと口の中で何事か唱え始めた。彼の低い声が部屋の中の空気を振るわせる。アルティナは自分の正面に並んでいる蝋燭のうち一本を見つめた。

 アルティナの周囲を回りながら、スウェインは呪文を続ける。

 それがどれほど続いたのか――スウェインがアルティナに向かって手を差し出した。アルティナの周囲にまかれていた銀色の砂が、炎となって燃え上がる。

 熱が顔に押し寄せ、アルティナの顔を焼く。声にならない悲鳴を上げて、アルティナはその場に倒れ込んだ。

 アルティナが意識を取り戻した時、炎はすでに収まっていた。

 そのすぐ側にスウェインが膝をついて待っていた。のろのろとアルティナは身を起こす。


「お気づきになりましたか――全ての記憶をお受け取りになりましたね」

「ええ……」


 これではこの神殿に来なければ何もできないはずだ。伝承は口頭で伝えられるわけではなかった。
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