銀棺の一角獣
 こうして軽口をたたき合っていると、これから先に待ちかまえていることに対する不安が少しだけ小さくなるような気がする。


「……儀式が始まったな」


 ふいにティレルが顔を上げた。


「……わかるの?」

「空気が揺らいでいる。おまえたちには感じられないだろうが」

「そういうものなの?」

「……ああ。後はキーランの意志の強さ次第だ」


 先を進むティレルの足取りには、迷いというものがまったく感じられない。


「そうね……後は、キーラン様にお任せするしかないわ」


 アルティナは、出てきた都の方を振り返る。王宮の上に雲がかかっているのが見えた。

 黒い雲はそれだけが不吉で――キーランの無事を祈らずにはいられなかった。

 都に戻るのと明らかに違うのは、今度の旅は準備をしっかりと整えているということだった。

 都に戻る時は、道中の村で手に入れられた食料は保存食だけで、それを調理する道具までは持ち合わせていなかったから、固いままかじるしかなかった。
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