銀棺の一角獣
 列の中程を歩みながら、アルティナはティレルが角を見えないようにしているのを眺めていた。

 折れかけている先端から、少しずつ霧散していった角はやがて完全に見えなくなる。そうすると、ティレルはどこから見ても立派な馬だった。


「尊い身分の方をこの村にお迎えすることがあるなんて思っても見ませんでした」


 やってきた村長は、腰の低い男だった。アルティナたち一行に自分たちの家を完全に明け渡してくれるという。

 大急ぎで調えたらしい寝室には、花瓶に新鮮な花が生けられていた。アルティナは特徴的な髪が目立たないように完全に覆ってしまって、騎士たちが村人たちと話をするのを見ていた。


「それではごゆっくりとおくつろぎくだませ。お嬢様の身の回りのお世話をするのに、家の者を残しておきましょうか?」

「――いえ、けっこうよ。ありがとう。自分のことは自分でできるから大丈夫」


 ミラールが断るより先にアルティナは自分で断った。そして村長は丁寧に頭を下げて出て行く。


「久しぶりにベッドで休めるわね」


 正直なところを言えばほっとした。村長の家の使用人たちが夕食の支度を調えていってくれたから久しぶりに携行食ではないまともな食事を食べることができる。
< 163 / 381 >

この作品をシェア

pagetop