銀棺の一角獣
 わかっている――アルティナは目を閉じる。


「アルティナ様」


 ルドヴィクがそっと声をかけた。アルティナは胸の前で両手を組み合わせる。せめて、彼らが無事に逃げ延びることができるように――

 やがて、武器の鳴り響く音が響いてきた。アルティナは耳をふさぎたかった。けれど、耳を塞ごうとする手を意志の力で押さえつける。それが彼らのためにできるせめてものこと。


「行きましょう、アルティナ様」


 ルドヴィクは自分の馬の手綱を取る。足音をさせないように、馬の足を布で包んでゆっくりと歩き始めた。

 アルティナは、ティレルから降りようとはしなかった。ティレルに任せておけば全て安心だからだ。アルティナは鞍に身を伏せたまま、ティレルの動きに身をゆだねる。


「無事に生き延びてくれればいいのだけれど――」

「大丈夫さ」


 ルドヴィクには聞こえないようにつぶやいた言葉にティレルは返してくれる。
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