銀棺の一角獣
 城に戻った夜、そうしたように。アルティナは手をのばしてティレルの毛並みを撫でる。


「一週間かかっても、あなたが食べきれないくらいの量を集めてあげる」


 わざとくすくすと笑う。そうすれば、なにもかもうまくいくのではないかと思っているように。


「アルティナ――このまま眠れるか」

「あなたの背中で?」

「そうだ。これから先のことはあいつ――」


 ティレルは鼻で少し前をいくルドヴィクを示した。


「あいつに任せておけば大丈夫だ。とにかくお前は少し休め」

「できるだけやってみるわ」


 アルティナはティレルに身を寄せたまま、目を閉じる。このまま眠ることはできなくても、少しでも身体を休めておかなければ。

 ティレルは、アルティナを落とさないようにゆっくりと歩き続ける。戦いの物音は、いつの間にか聞こえなくなっていた。

 不安は胸を騒がせるけれど――アルティナは努めて彼らのことを頭から追い払おうとする。誰も口をきかなかった。
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