銀棺の一角獣
「しばらく村には泊まらない方がいいのかしら?」

「そうだな。そうした方がいいだろう」


 ため息をついて、アルティナはティレルの上に倒れ込む。これから先出会う人は、誰も信じてはいけない。

 信じられるのは、己とティレルと――ルドヴィクだけ。鞍の上に身を伏せて、アルティナはもう一度大きく息を吐き出す――ルドヴィクに気づかれないことを祈りながら。


□■□ ■□■ □■□

 石造りの神殿の中は、ひんやりとしていた。

 ただ、彼のいる部屋だけが例外だった。白の儀式用の衣服に身を包んだキーランは、身体に銀で作られた鎖をかけられていた。

 壁や床と同じように石で作られた寝台に、彼は縛り付けられている。彼の周囲には何人もの神官が立ち、歌うような声で呪文の詠唱は続いていた。

 寝台の周囲には勢いよく炎がたかれ、部屋の中は、真夏と言ってもいいほど暑かった。

 ふいに呪文が止む。神官の正装をまとったジャファールは、キーランに近づいた。
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