銀棺の一角獣

　心は母国に飛んでいても、彼の耳には神官たちの唱える魔を押さえ込むための呪文の詠唱はしっかりと聞こえている。

　その呪文を聞きながら、彼は短剣を取り出す。儀式に入る前に握りしめたそれを使って、彼は父の周囲を囲む黒いもやをなぎ払っていく。

　一度、短剣を振り上げる度に黒いもやはキーランの身体の中にも吸い込まれていく。

　それを意志の力で押さえ込んで、彼は集中力の続く限りもやを払っていくのだ。


　心が神殿に戻った時には、彼の身体の中にも魔が巣くっている。それを神官たちの唱える聖なる呪文で追い払い――それを繰り返す毎日だ。


「大丈夫、まだ頑張れるよ」


　キーランはつぶやく。彼の思っているのは、アルティナのこと。彼女が微笑むのをもう一度見たいと、彼は切に願った。