銀棺の一角獣
 どんな傷も治してしまうという、ライディーア王家に伝わる傷薬は、騎士団員たちにも与えられている。ルドヴィクも、入団した頃から何度もこれの世話になっているはずだ。

 生々しい傷跡を見ることはそうそうなくて、アルティナは目をそらしたくなった。けれど、自分で手当しなければならないと――それだけがアルティナを動かす。

 軟膏をとった指先でそっと触れると、彼の反対側の肩が跳ね上がった。


「い――痛かった? ごめんなさい……」

「大丈夫ですよ……そうではなくて」


 気まずそうに彼はそこで言葉をとめてしまう。アルティナは何も聞かなかったかのようにもう一度軟膏を指先にとった。

 傷口に丹念にそれをすりこんで、上から清潔な布を当てる。さらに細く裂いた布を包帯代わりに巻き付けた。


「……申し訳ありません。アルティナ様に、このようなことを」

「手当くらいしか、してあげられないから」
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