銀棺の一角獣
 気がついたら、身体が勝手に動いていた。彼の正面に座り込んで、右手を両手で握りしめる。


「……ごめんなさい。わたし……」


 涙は見せまいと、必死に歯を食いしばっていた。それでも押さえきれなかった涙が溢れて頬を流れ落ちる。

 彼の上半身には、剣による傷も至る所に残っている。一角獣の棺をめぐって、ライオールとやりあったのがずいぶん前のことのようだった。


「泣かないでください。あなたに泣かれると、どうしたらいいかわからなくなる」


 ルドヴィクはアルティナの手に握りしめられていた自分の手をふりほどいた。アルティナの両手が、力なく下に落ちる。

 それにはかまわず、ルドヴィクはその手をアルティナの頬に伸ばした。頬を包むように手を当てて、親指で涙を払い落とす。


「あなたをお守りすることが、わたしたちに課せられた使命なのですよ、アルティナ様。だから……どうか、そのような顔はなさらないでください」


 ルドヴィクの瞳が、真剣な色を帯びた。青い瞳をアルティナはうっとりとのぞき込む。
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