銀棺の一角獣
 かつて、恋人だった時代。何度もこうやって見つめ合った。

 身分違いなのは知っていた――それでも。

 二人の間にある壁を、ルドヴィクなら軽々と飛び越えてこられるはずだと信じていた。

 実際彼はそこまで到達しようとしていた。彼なら今は亡き父も許してくれるだろうと――いつ父に切り出そうかと、そればかり考えていた。

 キーランと婚約してからは、彼はアルティナに対して一線引いて接するようになっていた。それは正しいとわかっているのだけれど――そうするべきなのもわかっている。


「アルティナ様」


 低い、けれど力強い声音で彼はアルティナの名を呼んだ。その先に待ち受けている何かを予期して、アルティナは目を閉じる。


「……アルティナ様」


 彼がもう一度名を呼んだ。頬を包んでいた彼の手が、後頭部へと移動する。そのまま顔を固定されたと思った次の瞬間、唇が重ねられた。

 父に正式に認められるまでは、と恋人同士だった時でさえも、彼はそうしたことはなかった。
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