銀棺の一角獣
 唇をかんで、アルティナはティレルの後について森の奥へと入っていく。

 森の中は不自然に静まりかえっていた。獣の声も、鳥の鳴き声もしない。


「この森には何もいないの?」

「……いや、そういうわけでもないんだがな。今はそれどころじゃないんだろう」


 ティレルの言葉が重い。


「それどころじゃないって……」


 それ以上のことは、ティレルも口にしようとはしない。

 馬具をおろしたティレルは、アルティナの数歩先を進んでいた。日の光はさえぎられてしまって、地面までは届かない。ティレルの毛は薄暗い森の中で眩いほどに輝いていた。

 どれほど歩いたのか――時間の感覚も失ってしまう。恐らくはそれほど歩いていないはずなのに。


「……この先だ」


 先を歩いていたティレルが振り返った。アルティナは無言で頷いて、ティレルに続く。ティレルが足を踏み入れたのは洞窟だった。


「足を滑らせないように気をつけろ」


 ティレルはそう言って、変わることのない足取りで奥へと進んでいく。
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