銀棺の一角獣
 不安だった。怖かった。

 自分はとんでもないことをしでかしたのではないか。ライオールに対抗できる唯一の手段を破壊してしまったのではないか、と。

 剣を鞘に戻して地面に横たえたルドヴィクにぐい、と腕を引かれる。彼の腕の中に閉じこめられて、アルティナは睫を震わせた。

 これから先、何が起きるのか完全にわかっている。わかっているからこそ、顔を上げることはできなかった。

 それでも、彼の方から顔を上げさせられれば――拒むことはできない。

 ルドヴィクは、片手でアルティナの背中を支え、もう片方の手で顎を固定した。閉じたアルティナの瞼に、彼の唇がそっと触れる。

 それから彼は目尻に残った涙の滴を吸い取って、遠慮がちに頬に口づけた。アルティナは一度目を開き、至近距離にある彼の瞳を見つめて、慌てて閉じる。

 きっと彼の手を振り払うことだってできた。けれどそうしなかった。

 むしろ喜ぶようにアルティナは唇を薄く開く。以前そうされたように、ゆっくりとルドヴィクは唇を重ねてきた。
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