銀棺の一角獣
「すぐに婚礼の儀を執り行うのだから」

「……承知しております」


 視線を落とせば、礼服と同じ刺繍を施した柔らかなライオールの靴のつま先が目に入る。そのつま先をにらみつけながらアルティナは言った。


「今宵、一角獣を引き渡す場には喪服ではない服装で参上いたします」

「そうか」


 ライオールの声音は満足そうな色をはらんでいた。


「それならば――せいぜい美しく装うがいい」

 ライオールは、アルティナに退出するように告げる。その言葉を受け入れて、アルティナは与えられた部屋へと下がった。

 アルティナの依頼通り、ディレイニー人の侍女が部屋に待ちかまえていた。ケイシーと名乗った彼女は、アルティナより少し年下に見えた。


「どうぞ、よろしくお願いいたします」


 茶の瞳をくるくるとさせて、ケイシーはアルティナを見つめる。

「まずは、湯殿にお湯を用意しますね。それから、お着替えをして――その前に軽食をお持ちした方がいいですか?」


 矢継ぎ早に繰り出される問いに、アルティナは苦笑いになった。
< 25 / 381 >

この作品をシェア

pagetop