銀棺の一角獣
 アルティナは手にした扇を振り上げた。それはつい先ほどルドヴィクの肩に触れたのと同じもの。


「ライディーア女王の名において命じます。全軍――出撃!」


 アルティナの声に兵士たちの声が重なる。

 ルドヴィクは馬上からアルティナの方を見つめた。胸に手を当て、恭しく一礼する。それから従者の手渡した兜をかぶると、それからはアルティナには見向きもしなかった。

 兵士たちと一緒になって、彼は正門の方へと消えていく。


「心配か?」


 揶揄するような口調でティレルがたずねた。


「ええ、心配よ――心配だわ」


 それでも、もうとめることはできない。アルティナはティレルの背から、城壁に降り立った。

 おそらく、彼女の姿は敵陣からもよく見えていることだろう。
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