銀棺の一角獣
 アルティナはルドヴィクに微笑みかける。彼の青い色の瞳と、アルティナの深い紫色の瞳が正面から出会った。

 先にアルティナの方が視線を落とす。それから、アルティナは彼の前から去った。


「ライオールはまだか」


 侍女たちに入浴させてもらい、機嫌のいいティレルが部屋に入ってきた。侍女たちが大急ぎで彼を洗ったのだが、毛並みを完全に乾かすところまでは時間が足りなかった。 まだ湿ったままの鬣がぺたりと倒れている。


「……入浴する時間があるなんてうらやましいわ」


 アルティナはティレルを見て唇を尖らせた。


「俺がこの場をうろうろしていたところで、準備の手伝いができるわけでもないだろうが」


 言われてみればその通りなのだが、アルティナは手足を洗っただけで我慢したというのに、ティレルが香草入りの石鹸の香りを漂わせているというのは何か違うような気もする。


「それはそうだけれど。あなたはどこにいるつもり?」

「おまえの隣に」
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