銀棺の一角獣
 アルティナがそう彼に言うと、彼は言われるままに目を閉じてくれる。アルティナは彼の首に手をかけると、自分の方に引き寄せた。

 最後に口づけたのはいつだったか――ティレルと一緒に旅をしていた間のこと。あまりにも長い間あいたので、口づけると言うよりは唇をぶつけるようになってしまった。「……上手にできると思ったのに」

 言葉には出せないから、行動で彼に示そうと思ったのにアルティナの口づけは、少しも甘美な物にはならなかった。


「幸せすぎて、心臓がとまるかと思いました」


 アルティナを抱きしめて、彼は言う。アルティナのぎこちないキスでも幸せだ――と、彼は笑った。

 どちらも長い間動かなかった。楽士たちの奏でる音楽が、広間から二人のいるテラスへと流れ出てくる。
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