銀棺の一角獣
 ライオールが受けた衝撃から立ち直れないでいるうちに、アシュリーは手をふりほどいて、足早に出て行ってしまう。彼の方は振り返りもしなかった。


「アシュリー! 待て!」


 彼女のことを追おうとして、自分が下履き一枚であることに気づく。手が届かないところに彼女が行ってしまったことに気がついて、ライオールは慌てて侍従を呼んだ。



 貴族ならばともかく、貴族の代理として領地を預かる領主の任命権は、王子であるライオールではなく宰相が持っている。立太子されたばかりとなれば、気軽に王宮を留守にするわけにもいかず、クレモンズ領へ行ったアシュリーとの連絡手段は文しか残っていなかった。

 けれど、アシュリーに文を出すのもはばかられた。

 彼女の生い立ちは複雑だ。マクマナス伯爵の娘であるが、生母は伯爵が戯れに手をつけたとある村の娘。伯爵はアシュリーの養育費すら払わず、母と育ての父親が双方死去した後渋々アシュリーを引き取ったと聞いていた。
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