銀棺の一角獣
 あの時から、何かあれば常に彼女を呼んできた。彼女は彼に逆らうことはできず、それが何を意味するのか考えもしないまま。彼女が笑わないのに気がついたのは、半年くらいたってからだったろうか。

 笑うと言うよりはごくごくわずかに口の端が上がるだけ。宝石を与えても、「父に取り上げられるから」と受け取ったことは一度もなかった。宮廷料理人の作る菓子が好きで、たまに渡してやると、唇がいつもより大きな弧を描く。

 一度思いきり笑わせてやりたいものだと思いながら三年――彼女はするりと彼の手をすり抜けてしまった。

 呼び戻すなんてことはできるはずがない。そんなことをすれば、マクマナス伯爵は喜んでも、他の貴族たちが騒ぎ立てるだろう。ライオールはいずれ王位を継ぐ身。彼に嫁ぐには、あまりにもアシュリーの身分は低すぎた。

 虚飾にまみれた宮中で、失ってはじめて気づく――彼女が必要だったのだと。権力を持たなければならない、彼女を堂々と呼び戻すために。


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