銀棺の一角獣
 父の家に引き取られてよかったと思うことが一つだけある。教育を与え、図書室は出入り自由にしてくれたことだ。

 図書室にいれば父にも、義理の母にも会わないですんだから、アシュリーは一日の大半を図書室で過ごしていた。

 クレモンズ領主になることが決まった時、図書室の本の中から役立ちそうな物を選び出し、同じ物をこちらに送る手はずを整えた。

 おかげで、領主となってもさほど戸惑わないですんでいる。あとは、書物で知った土壌の改良方法がこの地に馴染むことを期待するだけだ。


「……ライオール、様」


 側にいる時には口にしなかった名前も、ここでは思う存分口にすることができる。

 彼も今同じ月を見ているだろうか――自嘲の笑みがアシュリーの口元を横切る。彼はきっとアシュリーのことなど忘れ去っているだろう。とっくに終わった仲だ。わかっている――それはわかっているけれど。

 自分は生涯彼を想い続けるだろう。窓も凍りつくようなこの地で。
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