銀棺の一角獣
 出立の準備は、あわただしく整えられた。アルティナの持って行く荷物はそれほど多くはない。必要最低限の品だけを箱につめた。
 あちらの方がよほど進んでいるのだ。婚礼の衣装が必要ならば、到着してから揃えればいい。森の中の小国とは違って、品は豊富に揃っている。


「……兵士たちへの補償が大変ね」


 デインの差し出した書類を眺めながら、アルティナはため息をつく。


「このたびの戦争は――思いがけないものでしたから」

「……そうね。こちらは財務大臣に回して。できるだけ手厚い補償を、と。ディレイニー王国は賠償金はもとめないそうだから、そこは心配しなくて大丈夫」


 もともと向こうから仕掛けてきた戦なのだ。いらだたしく感じながら、デインはアルティナの指示にしたがって命令書を書く。

 出立前の最後の政務を終えて、アルティナは椅子の背もたれに背中をあずける。そして視線を天井に上げた。
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