銀棺の一角獣
「君の国まで十日くらいか」

「フォークレーア神殿は国境近くですからそのくらいになりますね。都まではさらに三日ほどかかりますが」


 キーランの問いにアルティナは返した。王宮を出て、まだ一月たっていないのに、ずいぶん昔のことのように感じられる。


「美しい国……なのだろうね。君のように」


 さりげなくつけたされた自分への賛美の言葉にアルティナは気まずくなって膝に視線を落とした。


「何もない小さな国です。森の緑は豊かですが……きっとキーラン様は退屈なさってしまいますね」


 膝の上に置いた手を軽く組んで、アルティナはひたすらにそれを見つめる。そうしていれば、キーランと顔を合わせなくてもすむから。


「そんなことはない。君の育った国を退屈だなんて――」


 熱のこもったキーランの言葉に、申し訳なく思う気持ちだけが膨らんでいく。彼の与えてくれるのと同じだけの気持ちを返すことなんてできない。一生。

 それでも彼はいいと笑うのだろう。優しい笑顔の裏に隠れている本心を一生アルティナには悟らせないまま。
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