誰かが始める断片劇
私は、話した。


明日、勇者として邪神を倒しにいくことを。


「はぁ、そりゃ大変だねぇ」


しかし、それを聞いたリオンの反応は、何処か他人事のようだった。


「……それだけ?」


「いや、だって僕は勇者じゃないし、旅立つわけじゃないし、魔王やっつけるとかそういうのはゲームだけで十分なわけだし、ぶっちゃけそういうめんどくさいのは誰かやってよーなわけだし」


いつもの、軽い調子でそう言った。


「君は……そういうところは相変わらず冷たいね」


「じゃあ君は、僕になんて言って欲しいんだい?もしかして『頑張って勇者様!』とか『死なないでっ!ハディス様』とか言ってほしいの?うわ、自分でやっといて寒気がする!」



何故か、『』の部分は裏声だった。


でも、確かに凄い寒気がした。


「……今、僕に対して何か失礼なことを考えなかった?」


そして、相変わらず鋭い。


「まあ、冗談はこのくらいにして」


「冗談だったの?」


「うん。ていうか僕の発言は、『厳しさ100g』、『優しさ5g』、『冗談15Kg』で錬成されています」


「そういえば、そうだね」


「いや、そこはツッコむとこなんだけど」


「ふふ、君と話してると、明日旅立たなければいけないことを忘れてしまうよ」


「え、じゃあ、忘れちゃえば?どうせ他の勇者がなんとかしてくれるから」


「ふふ、それも、いいかもね」


それは、冗談のつもりでもあったし、私の本音でもあった。


「あはは、サボっちゃいなよ」


明日でお別れ、だけど私達は、それでも、暗くなるまで、いつものように冗談を言い合っていた。
< 20 / 42 >

この作品をシェア

pagetop