誰かが始める断片劇
「なんでその手紙を持ってるんだ君は」


私の書いた手紙を読んでいたリオンから、手紙を奪いとって、私はそれをビリビリに破いた。


「うわっ、まだ読んでるのに」


「い、生きてたら捨てろと書いてたのに、なんで君は最後まで読もうとしてるんだ」


ここは、病院。


邪神を倒した私は、あのあと、意識を取り戻した勇者に運ばれて、今現在、傷を癒すために入院している。


「あはは、ハディス、顔真っ赤」


「き、君って奴は………」


「あ、ところで」


先程までヘラヘラと笑っていたリオンだが、不意に真顔で


「ところで、最後の所はなんて書いたの?」


なんて聞いてきた。


「内緒、黙秘権を行使するよ」


だって、恥ずかしいし。


というか、察してほしい。


……いや、彼の場合人が悪いからわざとわからないフリをしてるだけかもしれないけど。


「ねえ、リオン」


「なぁに?」


「喉が乾いたから、何か飲み物買ってきて」


「ん?君は僕をパシリにする気かい?」


「私は怪我人だよ?」


「……なぁんか、昔に比べて、だいぶいい性格になってね君」


「そうかい、これも君のおかげだよ。ありがとう」


「あんま嬉しくないなぁ」


そう言いながらも、彼は私に飲み物を買いに行った。


「ありがとう……」


その言葉が、病室を出た彼に伝わったかは、分からない。
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