誰かが始める断片劇
「ハディス」


彼と会話をしていると(といっても、彼の話を私が一方的に聞くだけ)、軍服のような物を着込んだ女性――私の師匠がやってきた。


「だれ、この人」


少年が小声で尋ねてくる。


「私の師匠」


それに対して、私も小声で返す。


すると、師匠が口を開いた。


「ハディス、この少年は何者ですか?」


「え、それは……」


答えようとして、自分がまだ、少年の名前を知らないことに気付いた。


すると、彼は私の代わりに答えた。


「僕はリオン、彼女の友達」


「リオン?」


師匠は何か思案するように目を細めて、

「………ああ、君があの」


そんなことを呟いた。

「……しかし君は、確かこことは正反対のエリア出身ではありませんでしたか?」



この口ぶり、どうやら師匠は彼のことを知ってるようだった。


「師匠、彼を知ってるんですか?」


「ええ、まあ……」


師匠の返事は、なぜか歯切れが悪かった。



ややあって「……ところでリオン君」と話題を変えた。


「ウチのハディスと、一戦交えてもらえないですか?」


師匠のいきなりの言葉に、彼は子供らしくない、やる気なさげな顔になって、


「やだよかったるい。なんでそういう話になるのさ」


「まあまあそう言わないで、後であそこのアイスを奢ってあげます」


「へ……マジ?あそこのアイス?」


師匠の言葉に、彼はがらりと表情を変えた。


「よしやろう!さあやろう!」


いつになく、子供っぽい、というか、目を輝かせていた少年――もといリオンの姿がそこにあった。
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