誰かが始める断片劇
「……本当にやるの?」


私は木刀を構えながら、同じく木刀を構えるリオンに尋ねた。


「え、だってアイス買ってもらえるんでしょ?」


動機は不純だけど、一応やる気はあるみたいだったから、私はそれ以上何も言わなかった。


「二人とも準備はいいですね?」


師匠が確認して、試合の合図を出した。


それと同時に、私はリオンとの間合いを詰める。


そして、間合いに入ったところで一閃。


その一閃は、普通の子供なら反応できずに、為す術もなく昏倒させてしまうはずだった。


カンッ、そんな音がした。


「うわ、速っ」


「………」


リオンは、私の斬撃を木刀でしっかりと受け止めていた。


まぐれ?


それを確かめるために、私はさらに木刀を打ち込む。


だが、


「よっ! はっ! おわっ!? やばっ!? 速っ!?」


そのすべてを、リオンは受け切ってみせた。


「もしかして、君は剣術を誰かに習ってるの?」


「ん~、習ってるっていうよりは、無理矢理叩きこまされてるという感じだけどね」


やっぱり、と思った。


そうと分かって、私は自然と笑みを浮かべていた。


「なら、もう少し本気でやってもいいよね?」


私は、本気で相手にすることにした。


「へ? もしかしてまだ強く……ってうわっ! さっきより速っ!?」


リオンは、先程より数倍速度の増した斬撃を、何回か防いで見せたが、やがて木刀を手放してしまい、


「ギブギブ!マジでギブ」


あっさりと降伏した。


「………」


私はそれに、少しだけ物足りなさを感じた。


……この程度か。


……でも、私よりも歳下で、これだけ戦えるだけもすごいよね、と自分に言い聞かせたところで、


「いやぁ、にしても僕と一つ違いであんな凄い動きするとはねぇ……」


リオンは、何故か私の手を握った。


「……?」


その行為の意味が分からず、首を傾げていると、リオンはそこから、手をひねる。


「え……?」


そして、そのままあっさりと関節を決められてしまい、


「はい、リオン君の勝ち。ハディスの負け」


そこで、師匠が試合終了を告げた。
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