‐VOICE‐
■第1章■悪魔のトルテ

‐First contact‐



『……キ…』

 荒々しい風…暗闇の中、それらよりも更に闇色を呈す男の長くて柔らかい髪が宙に浚われる。同様に真っ赤な薔薇の花びらが辺りに散らばり、自分の視界を遮っていた。
 もっと良く見ようと青年は目を凝らし、前方を睨みつける。

(―‐あれは…)

 懐かしい感覚と、妙な焦燥感。自分は彼を知っているのに、どうしても思い出す事が出来ない。
なにか大事な事を彼に握られているような気がする…
それは自分の人生に関わる様な重要ななにか…
 そんな気がしてならない。青年はゆっくりその男に歩み寄る。
 突如疾風が襲いかかり、自然頬に打ち当たる花びらに目を瞑り、青年は慌てて両手で顔を覆う。

『…束…だ。…日…』

 良く、聞き取れない。
 眉を潜め、青年は腕の隙間から前方を見遣る。微かに見えたのは、男の青白い、薄い唇だけ。

『…百日の暁、必ずや迎えにゆく。努々忘れるな。』

(100日…?なんだ、それ…)

 男に問い正そうと両手を外した瞬間、青年は花吹雪に飲み込まれる。花吹雪の中、唯一見たのは男から生える渦々しい…

(…悪魔?)

 そこで完全に青年の意識は途絶えた。


 
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