幻月幻夢
「はい。桜花様はこの世界に来てまだ時間が経っていないので知らないと思いますが、桜花様は前国王がどのように亡くなったか知っていますか?」


「知らないわ。」


「前国王は、桜花様より少し年上で女性でしたが男性に負けないくらい気が強くそしてとても心のお優しい方でした。前国王の時は、国は豊かでずっと幸せだと思っていました。」


「素敵な人だったんですね。」


「はい。ですが…。」


紀良は一度ほほ笑むと、急に顔を暗くした。


「王の体を狙ってこの城に獣たちが一斉に押し寄せてきたのです。」


「獣たちが?」


「はい。国が豊かになると言うことは獣たちからすれば狩りが出来なくなるということです。獣たちは耐えきれなくなり、団結してこの城に来たのです。それはものすごい量で、空は獣で見えなくなるくらいでした。」


「そんなに…。」


「王は一番奥の部屋に避難させ、紫刹様たちが闘っていましたが莫大な獣の量に紫刹様達も少しずつ劣勢になっていきました。その時、前国王は部屋から出て重症になった兵士たちに血を分け与え始めたのです。紫刹様は止めましたが、前国王は止めませんでした。そしてそのまま数日戦いが続き……。」


そこまで言うと、紀良が言葉を止めた。










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