幻月幻夢
「どうかしました?」


「もう少し奥が良いか・・・」


ボソリと言ったかと思うと急に腕を掴まれ老人とは思えない力で引っ張られた。


何事か理解できず、私は老人に手を引かれ歩いた。


しばらく歩くと、森の中に入り老人は手を離し私のほうを向いた。


いや、正しく言うと老人“だった”人が私のほうを向いた。


森の中に入ると老人は、白髪が黒くなり曲がっていた腰は真っ直ぐになり、私の腕を掴んでいた手の皺は消えていった。


今目の前にいるのは、長い黒髪を靡かせ整った顔で私を見たいる男性だ。


「あ・・・・の・・」


驚きのあまりうまく声を出すことが出来ない。


私のそんな態度も気にせず男は口を開いた。


「お前は昨日の夜、月を見ていたな?」


急に変な質問をされ呆然としていると男は、眉間に皺を寄せもう一度問いかけてきた。
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