パーフェクトティーチャー
「氷室先生。
単刀直入にお伺いするわ。
この後、今晩のご予定は?」


雪の結晶のようにもろくて白い手を、ゴツゴツと男らしい氷室の手に重ねる。


まわりくどい駆け引きはやめにして真奈美は一気に勝負に出た。


肉食系がやりそうな手口である。


獲物を一瞬で飲み込もうとする様子はまるで猛獣のようだ。


しかし・・・


氷室との温度差ははてしなく大きかった。


氷室は目を輝かせて言った。


「今話題のRPGご存知ですか?」


「何それ?
RPGって?」


「いやだなぁ。ゲームの種類ですよ。
ボク、もう少しでそのゲームをクリアできそうなんですよねー。
あーあ。
うちに帰って早く続きをやりたいなぁ。
そういうわけなんで、デザートが済んだらボク、とっととお暇しまーす」


小学校低学年のような物言いだった。


真奈美の眉間に顔中のしわというしわが大集合し、大集会を開いたのも無理はない。


おいコラ!


若造め!


大女優をコケにするのもいい加減にしろよ。


化粧で塗りたくった顔にそう書いてある。


二人っきりの個室に千年と二十年分くらいの長い沈黙ができた。


静寂を破ったのは真奈美でも、そして氷室でもなかった。



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