パーフェクトティーチャー
しかし真奈美はどこまでも女優である。


しおらしい顔を作り、心の底から申し訳なさそうな口調で言った。


「氷室先生。
本当にごめんなさいね。
こんな失礼極まりないお店にお連れしちゃって。
なんてお詫びしていいのやら。
私も少々混乱してます。
どうかしら?
別のお店で飲み直しましょうよ。
麻布に落ち着けるバーがあるの。
隠れ家にぴったりのシックでムードのあるお店よ」


真奈美は氷室の手を引っ張り、店外へと出た。


もちろんほたるも慌てるようにして追いかける。


真奈美と氷室が店の外に出た瞬間だ。


激しい稲光が夜道を照らし、昼を招き入れた。


と思ったが、光の正体は自然現象なんかではなく、カメラのフラッシュだった。


「あのー、黒田真奈美さんですよね?
お聞きしたいのですが。
お連れの男性はどなたですか?
どういうご関係なんでしょうか?
是非お話しいただきたいのですが・・・」


ベレー帽を被った小柄な男が図々しく真奈美に近寄る。


手には小型の録音機が握られていた。


週刊誌の記者であることは、もはや疑いようもなかった。



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