百鬼夜行の主
第五章 抗争、勃発
雪羅side
『…主様、入りますよ』
私は主様のいるビルの一室に入った。
主様は、魔天楼を手に壁にもたれるように座って、ただぼうっと何かを見ていた。
焦点の合わない、どこも見ていないような眼を主様はしている。
私は鬼灯の寝ているベッドのそばにタオルと洗面器を置いた。
『…鬼灯。まだ目を覚まさないんですね』
「あぁ…」
主様が抑揚のない声で返事をする。
あの後、鬼灯は百鬼の皆の力で何とか一命は取り留めた。
しかし、出血がひどく、一週間がたった今でも目を覚まさないままだった。
鬼灯の顔を、タオルで拭く。
『…主様』
「なんだ…?」
『…鬼灯がこのような状態になったのはあなたのせいではありません。鬼灯はあなた様を守るためにやったことですので、あなたが傷つくことなどないのです』
主様が、静かに頷いた。頭では分かっているはずだ。鬼灯が傷ついたのは自分がやったことではないと。しかし―守れなかったと悔んでいる。それが、主様の心を締めあげているのだ。