KISS

「だけどね、えみちいは雪宮くんがいれば大丈夫なの」


顔は見なかったが、おそらく泣いているのだろう。


声が震えていた。


「雪宮くんがいるだけで良かったんだよ・・・」


それなのに。


「あたし許さない」


桜の声が低いものに変わった。


「えみちいに刻まれた傷、すごく深いよ」


それだけ言って、逃げるように走っていった。


「言い逃げかよ・・・」


短い言葉の中に、桜の気持ちが痛いほど入っていた。


・・・『許さない』、か。


「・・・言ったら、えみは離れるだろ」


どうすればよかった?


きっと誰も傷つかない方法なんてない。


でも、1番大事な奴を傷つけた俺は−




えみの傍にいることはできない。
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