KISS

「あれ、えみちゃん。今日たくちゃんは?」


「・・・シラナイ。」


「起こさないとダメじゃない」


桐とお母さんが言うことを聞き流して玄関に向かう。


「ちょっ、えみ、朝ごはんは!?」


「イラナイ。」


ばた、ん。


虚しく玄関のドアが閉まる音。


隣の家を見上げると、巧の部屋はカーテンが閉まったまま。


一瞬迷ったあと、巧の家のドアノブを回した。


そっと階段を上り、巧の部屋の前で立ち止まる。


「・・・巧?」


返事はない。


いつもなら起きているわけもない。


・・・でも聞いてもらわなくてもいい。


「おはよ、巧」


深く息を吸い込んで、ほっと息をついたあと、口を開いた。
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