KISS
桜に支えられて、ようやく立っていたあたしに、乱暴に携帯が渡された。


「・・・っ」


それを震える手で、掴んだ。


「たく、み?」


恐る恐る呼ぶ。


お願い。


返事、して。


『えみ?』


巧は笑うかもしれないけど、あたしはこのときほど巧の声を聞けて嬉しかったこと、ないよ。


『今、車と接触事故あってさ』


「巧・・・?」


『うん?』


「・・・巧?」


『うん』


何も聞かずに、あたしの問い合わせに優しく返事をする。


「・・・巧、っ」


『ごめん』


謝ったけど、意味分かってんの?


分かってないでしょ。


馬鹿・・・。


『えみ』


あたしは携帯をにぎりしめて、ただ泣いた。
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