KISS

ラケットを手に取って、陸ちゃんに渡す。


「何かを失ってもそこから立ち上がる強さがあるから」


あたしにはないもの。


何があっても揺るがない強さ、ぶれない自信。


あたしも巧を思うとき、その強さを持てればいいのにって思う。


「えみも変わってない」


突然、陸ちゃんがふわっと笑った。


「えみってね、巧を見つめるとき不安そうな顔するの」


今もそういう顔だった、とクスクス笑う。


「でも巧が傍にいるだけですごい幸せそうな顔してる」


・・・知らなかった。


はにかみ笑いをしたあたしに陸ちゃんは微笑んだ。
< 135 / 170 >

この作品をシェア

pagetop