KISS

離れたくない。


その気持ちは痛いほどに分かった。


あたしが分かったんだから、龍も分かっているはずだ。


でも龍の性格からして、そういうことは言わないタイプだと思う。


「…ごめん」


龍はただ謝っただけだった。


淋しそうな表情を浮かべて。


「なんで謝るの…」


ごめんという謝りの言葉、それは龍が自分の考えを変えることはないという証。


「行かないで…」


あたしをひとりにしないで。


桜の気持ちが痛いほどに伝わってくる。


桜はいつも元気であたしのことを心配してくれるけれど、自分のことで悩んでいるところは見たことがなかった。


それくらい龍のことを信用していた。


だから、今あたしは正直驚いている。


桜が行かないでと龍を止めることに。
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