KISS

『えみっ、俺、えみに俺の全部あげる』


『だから、えみも俺に全部ちょーだい』


小さい頃の何気ない会話。


あの頃、すべてという意味さえ分かってなかった。


ただ、あの日のあたしはこう答えた。


『うん、分かった!』


それは拙い言葉での口約束にしか過ぎないと思っていた。




喫茶店を逃げるように出てきたあたしは、何故かそんなことを思い出していた。


あたしたちは、何も変わらないなんて無理なんだ。


今までそんなに変わらなかったこと自体が凄いと思う。


・・・巧はあたしを突き放すためにああいうことをしている。


そうとしか思えなくて、あたしは立ち止まった。


中学生のときも、似たようなことがあったから。
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