KISS
『いー加減にしてくれない?』
いつも巧の前で鼻にかかったような甘い声を出す人とは大違い。
目の前にいるのは、髪をくるくるに巻いてうすく化粧をしている、クラスの女王みたいな人。
・・・これで中学生に見えるって方が無理だわ。
クラスの中心グループの女子にかこまれながら、冷静に脳内で毒づく。
放課後、日の傾いた人気のない教室。
誰も来ないだろうな。
桜も龍と帰らせたし。
呼び出された時点でこういうことになるだろうとは予測していた。
甘んじて受けよう。
あたしは巧のただの幼なじみだということを証明するために。
『何、見てるのよ!』
いや、見てませんけど。
そういう前に、溜息か出た。
女王はかっとなって、手を振り上げる。
『なんであんたなんかが・・・っ!』
ひゅっと下ろされる手をスローモーションで見た気がした。
ああ、叩かれる。
静かな教室にバシッと渇いた激しい音が響いた。
不思議と痛みはない。
当たり前だ。
叩かれたのはあたしじゃなかったんだから。