KISS
なに、それ。
反論しようとしても、上手く声が出ない。
龍が話したはずだから、分かってるでしょ?
木之下さんは、桜に手をあげた子なんだよ?
何の関係もない、桜に。
そう言いたいのに、声が出ない。
『えみ?』
巧の声が酷く遠くで聞こえた気がした。
そのとき、気づいた。
巧はあたしのこと、どうでもいいんだ。
当たり前だと思う。
ただの幼なじみなんだから。
でも今までどんなときでも傍にいたのに。
・・・あたし、何を勘違いしてたんだろう。
巧はあたしの幼なじみ。
分かってたことなのに、直面するとこんなにも辛いと思うなんて。
『えみ?』
優しくあたしの名前を呼ぶその声が、凄まじくあたの神経を逆なでした。
『思わせぶりなことすんなハゲ!』
『はあ!!?』
暴言を吐き、すぱこーんと巧の頭を叩いたこと、今でも覚えている。