KISS
「帰るぞ」
あたしの方をちらりと見て、巧は席を立つ。
教室にはあたしと巧しかいなくて、オレンジ色の日が教室を照らし出していた。
廊下に出ると、桜に出くわした。
「えみちい」
心配そうにあたしを呼ぶ声。
その心配に気づかないふりをして、「ばいばい桜!」と無理に笑った。
遠くで聞こえる部活の音、静かな階段。
階段を踏み外しそうになったあたしをふわりと支える熱い手。
「・・・ばーか」
巧が呟いてあたしに向かって苦笑する。
・・・その仕種に、あたしはどれだけ心を乱されてきたかな。
また苦しくなる。