KISS

ただ、その気持ちは言えなかった。


あたしに残された意地が、それを言うのを拒んだから。


好きな人に意地とか普通使わないかもしれないけど。


「・・・、なんでもないよ」


そう、<なんでもない>。


その言葉を楯にしてあたしは逃げた。


いつからこんなに弱くなったんだろう。


巧を想えば想うほどに揺れる自分がいる。


・・・情けない、なんだか。


泣きそうになるのを何とかこらえて、あたしは巧を見上げた。


「教室、帰ろ」


不自然じゃないように微笑んだ。






・・・つもりだった。




急に掴まれた。


さっきまで触れられていた海くんの手より熱い手で。


その熱さを感じたとき、思った。


あたしは、この手以外何も縋りたくない。


だけど、次の瞬間。


巧の口から出た言葉は。






「・・・海の方が好きか?」
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