『恋人代行 』 ① 媚薬の口づけ
あぶねぇ……危ねぇ……。
彼女が野菜を切る音が耳に着かなかったら
………マジでヤバかったな。
けれど、あまりに近づき過ぎた事に気付いて…
「旨そうだな」
咄嗟に出た言葉が“旨そうだな”
ただ、切られただけの野菜に褒め言葉。
何を口にしてるんだ?
完全に馬鹿だな……俺。
穴があったら入りたい。
今すぐここから消え失せたい……が、
俺の言葉に驚いて彼女が振り返った。
あぁ~もう…なるようになるか…。
急に背後にいる俺に驚いている彼女は目をまん丸くして…。
俺は必死に平静を装って…
“今日は何?”と如何にも的な質問を。
そして……
「紐が解けかかってる」
彼女のエプロン紐に手を伸ばした。
震える手を必死に堪えて、
気を落ち着かせながら結び直した。