『恋人代行 』 ① 媚薬の口づけ
翌日、待ち合わせのカフェに行くと既に彼女はいた。
奥の窓際の席に座っていて、外を眺めていた。
店内の男性客も店の外を歩く通行人も…彼女をチラチラ見ている。
俺が見ても結構可愛いと思った。
ふんわり緩く巻かれた髪に、色白の肌。
クリっとした大きな目。
座っているから分かり辛いが、小柄と言うか…どちらかと言えば華奢なタイプ。
男連中が視線を送っているのにも気づかず……
彼女は雲を眺めていた。
『金澤葵さんですか?』
声を掛けても返事が無い。
2度聞いてやっと返事が返って来た。
俺の予想通り、依頼主は彼女だった。
まぁ、店内を見回しても彼女以外“可愛い”と思われる子は他には見当たらない。
名前を名乗っても、うんともすんとも返答が無い。
姉貴は何も言ってなかったが……
もしかして、耳が悪いのか?
俺はそんな事を思い始めていた。