『恋人代行 』 ① 媚薬の口づけ
彼女が聞き取れるように…
それでいて、唇の動きが分かるように……
俺はゆっくり、ハッキリ話すように心掛けた。
一応、これでも医者の卵だから。
彼女はジッと俺を見ている。
瞬きもせず、見続けている所をみると…やはり耳が悪いのか?
時間差があるにせよ、話せるなら手話は必要ねぇな。
俺は優しく笑顔を傾け、落ち着いた口調で話した。
どんな風にターゲットの男に接するのかと聞いても、考えは纏まってない様子。
俺は良くある依頼のケースを話してみた。
しかし、話し終えても返答が無い。
この子…やっぱりどこか悪いんじゃないのか?
俺は彼女の顔の前で手を振ってみた。
焦点が合ってないと言うか…
意識が朦朧としていると言うか…
俺は不安になり、顔を覗き込んだ。
すると、反応は遅いが返事をした。
返事をしたかと思えば…いきなり爆弾を投下して来た。
『葛城さんがあまりにカッコ良くて、つい見惚れちゃいました』って。
そんなこと言われたら、襲いたくなるっつうの!
まぁ、今まで実際に依頼主を襲ったことなんて、ねぇんだけど。
だって、俺は客相手に本気になったりしねぇから…。