『恋人代行 』  ① 媚薬の口づけ


彼女が聞き取れるように…

それでいて、唇の動きが分かるように……

俺はゆっくり、ハッキリ話すように心掛けた。




一応、これでも医者の卵だから。

彼女はジッと俺を見ている。

瞬きもせず、見続けている所をみると…やはり耳が悪いのか?



時間差があるにせよ、話せるなら手話は必要ねぇな。

俺は優しく笑顔を傾け、落ち着いた口調で話した。




どんな風にターゲットの男に接するのかと聞いても、考えは纏まってない様子。

俺は良くある依頼のケースを話してみた。

しかし、話し終えても返答が無い。



この子…やっぱりどこか悪いんじゃないのか?

俺は彼女の顔の前で手を振ってみた。

焦点が合ってないと言うか…

意識が朦朧としていると言うか…

俺は不安になり、顔を覗き込んだ。



すると、反応は遅いが返事をした。

返事をしたかと思えば…いきなり爆弾を投下して来た。

『葛城さんがあまりにカッコ良くて、つい見惚れちゃいました』って。

そんなこと言われたら、襲いたくなるっつうの!

まぁ、今まで実際に依頼主を襲ったことなんて、ねぇんだけど。

だって、俺は客相手に本気になったりしねぇから…。





< 16 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop