微笑みと共に、世界は眠る
「〝月下美人〟と彼は――おじいさんは呼んでいたわ。一晩だけしか咲かない、儚き花。けれど、とても美しい花。まさにその通りの名ね」
「そうだな」
大きく純白の花弁を広げたその花の姿は、誰もが魅了してしまうほど、見事である。
「花言葉も聞いているか?」
「ええ。〝儚い恋〟、それが、花言葉よ」
けれどね、と少女は続ける。
「月下美人には、もう一つ、隠された花言葉があるの」
「……それは?」
彼女は咲き誇るその花を、じっと見つめる。
( 僕は、彼女にこの花を捧げたいんだ )
脳裏に浮かぶ、〝彼〟の姿。
( 花言葉はね―― )
目尻に皺を寄せ、愛しげに、彼は空を見上げた。
「――ただ一度だけ、会いたくて」
( 花が咲き、彼女がそれを空から見つけた時、思いも一緒に伝わってほしいから )
皺の多いその顔は、懇ろに微笑む。
( だから僕は、この花を選んだんだよ )
「……空の上で待ち続けるおばあさんのために、彼は変わらぬ愛を伝えようとしたのね」
「そうかもしれないな」
温かい気持ちが、二人を包み込む。どちらからともなく、手は繋がった。
「あなたが傍にいてくれたら、私はこの世界と、ちゃんと向き合うことができるかもしれない」