微笑みと共に、世界は眠る
「もし俺が、君のことを覚えていなかったら?」
新しく生まれ変わる。それはつまり、以前の記憶もなくなってしまうということ。
「……それでも、出会って悲しんだりはしないわ。〝新しい思い出〟を作っていけるように、仲を深めてみせる」
切なげに、彼は微笑む。
君のことを、覚えていたい。けれど、俺にはどうすることもできない。
ああ、でも、もしも俺がまた、〝異常者〟だったら――。
「――名前を」
「……え?」
「君の名を、教えてほしい。そうすれば、僕は君と出会えた時、君の名前を聞いた時、思い出すことができるかもしれない」
〝異常者〟であれば、何かが胸に引っ掛かるかもしれないから。
「……私には、名前がないの。強いて言うのなら、〝K1025〟――それが私の……この世界の名よ」
かつては名前を持っていた時もあった。けれど、いとも簡単に忘れられてしまうのならば、消えてしまうのならば、持つだけ、虚無感に包まれてしまうから。
だから、私は捨てた。自分の存在を象徴する、大切なものを。
「……私には、名前なんて必要ないの。あるだけ、意味のないものだから」
けれど、と彼女は続ける。
「私はあなたの名を呼びたい」
愛情の証に与えられた、あなたの名を。
少女の言葉に、青年は目を丸くし、小さく笑う。そういえばまだ教えていなかったのか、といった表情だ。