微笑みと共に、世界は眠る
「――……俺は、兵士に憧れてた」
静かなその声に、少女はただじっと、青年を見つめた。
彼は空を見上げる。
「父は俺が幼い頃に死んだ。街の人々を守るために死んだんだよ。誰の役にも立たず死ぬよりも、そのほうが断然かっこいいと、俺は思ったのさ」
だから兵士に憧れた。
父みたいに、人々を守りたいと強く感じた。
けれど実際に戦場に立てば、人を殺すことに罪悪を感じ、逃げるように隠れて、怯えてしまった。
「俺は敵を一人また一人と殺していく度に、UGCで暮らす人々を守るためだから、と自分に言い聞かせては、命を奪うという罪から逃れようとしてた」
でも、と言って彼は口を噤む。心なしか悔しそうだ。
「でも?」
なかなか口を開かない青年を、少女は促す。
「でも相手は、俺と同じように誰かを守ろうとしていて……。そんな彼らを、俺は殺すことは仕方のないことだと自分に何度も言い聞かせて、殺すためらいをなくしていった。初めは殺してしまった後に申し訳ないという罪悪感に、悲しみに襲われたのに……今ではそれすらも消えかけていて……」
手のひらを見つめ、唇を噛み締める。
僅かに彼の体は震えていた。
「俺は最低な奴だよ」
両手で顔を覆い、自分をせせら嗤(わら)う。
「街の人々を守るために、毎日のごとく俺は血を浴びる。本当は早く戦争を終わらせたいがために、自分が少しでも生き残る確率を上げたいがために、俺は相手を殺しているんじゃないかと」
「敵が戦員不足で敗退することを、あなたは望んでいるというの?」
「……そうさ。この争いが終わるには、もうその方法しかないんだ」
「どうして?」
「戦争が起こった理由を、俺は知らない。俺だけじゃない。他の奴らだって、みんな知らない。争う理由なんて忘れ、今じゃ馬鹿みたいに負けたくないと意地を張り続けて、敵を殺し続けてるんだよ」
敵の支配下などにはなりたくないという思いだけで、今はこの戦争が成り立っている。
お互いが身を引くことなんて、ありえない。
少女は立ち上がり、スカートを軽く手で掃う。